あれは忘れもしない、大事な会議がある日の朝のことでした。いつもより少し寝坊してしまい、慌てて身支度を整え、さあ家を出ようと玄関に向かいました。そして、いつものキーフックに手を伸ばした瞬間…鍵がない! そこにあるはずの、家の鍵と会社の鍵が束になったキーホルダーが、跡形もなく消えていたのです。一瞬、時が止まったかのような感覚に襲われました。会議の時間は刻一刻と迫っています。しかし、鍵がなければ家からも出られません。まずは落ち着こう、家の中にあるはずだ、と自分に言い聞かせ、心当たりの場所を探し始めました。リビングのテーブルの上、ソファの周り、昨日着ていたジャケットのポケット、いつも使っているカバンの中…。しかし、どこにもありません。時間だけが過ぎていき、焦りはどんどん募ります。「まさか、昨日の夜、どこかに落とした?」「いや、でも家には帰ってこれたはずだ…」頭の中が混乱し、冷や汗が背中を伝いました。もう一度、玄関からリビング、寝室、キッチンと、思いつく限りの場所を半ばパニックになりながら探し回りました。引き出しを片っ端から開け、クッションをひっくり返し、ゴミ箱の中まで覗きました。それでも見つかりません。「もうダメだ…会議に遅刻する…鍵屋を呼ぶしかないのか…?」諦めかけたその時、ふと、洗面所の洗濯カゴが目に入りました。まさかとは思いつつ、洗濯物の一番上に乗っていた、昨日履いていたジーンズを手に取り、ポケットを探ってみると…ありました! 硬い感触。恐る恐るポケットから取り出すと、紛れもなく私の鍵束でした。どうやら昨夜、帰宅して部屋着に着替える際に、ジーンズのポケットから鍵を出すのを忘れ、そのまま洗濯カゴに放り込んでしまっていたようです。鍵が見つかった瞬間の、全身から力が抜けるような安堵感は、今でも忘れられません。結局、会議にはギリギリ間に合いましたが、あの朝の数十分間の焦燥感と恐怖は、本当に生きた心地がしませんでした。この一件以来、私は鍵の定位置管理を徹底し、帰宅したら何よりもまず鍵をキーフックにかけることを自分に固く誓いました。家の中での鍵の紛失、たかが家の中と侮ってはいけません。あの冷や汗をかかないためにも、日頃からの管理がいかに大切か、身をもって学んだ出来事でした。