スマートキーシステムは、キーと車両が無線通信を行うことで成り立っています。具体的には、キー内部の送信機と車両側の受信機、そして双方に搭載された認証用コンピューターによって構成されます。ドライバーがドアノブに触れたり、車内のスタートボタンを押したりすると、車両側から微弱な電波(リクエスト信号)が発信されます。その電波の範囲内(通常は車両から半径1メートル程度)に正規のスマートキーがあると、キーはその信号を受信し、自身の固有IDコードを含む応答信号を車両に返します。車両側のコンピューターが受信したIDコードを事前に登録されたものと照合し、一致すればドアの解錠やエンジン始動が許可される、という流れです。この一連の通信には、スマートキー本体のボタン電池からの電力供給が必要不可欠です。では、なぜその電池が切れてしまった状態でも、スマートキー本体をスタートボタンに近づけることでエンジンを始動できるのでしょうか。この秘密は、スマートキーに内蔵されているもう一つの技術、RFID(Radio Frequency Identification)にあります。多くのスマートキーには、電池とは別に、イモビライザーシステムと連携するためのトランスポンダーチップが埋め込まれています。このRFIDチップは、外部(この場合は車両のスタートボタン周辺にあるアンテナ)から特定の周波数の電波を受けると、その電波エネルギーを利用して自身の情報を発信する能力を持っています。つまり、チップ自体は電池を必要としないパッシブ型RFIDタグとして機能するのです。スタートボタンにスマートキーを近づけるという行為は、このRFIDチップを車両側のアンテナの至近距離に置くことで、強制的に認証プロセスを起動させる操作に他なりません。車両側アンテナからの電波を受けてRFIDチップが応答し、その情報が正規のものと確認されれば、イモビライザーが解除され、エンジン始動が可能になるわけです。一方、メカニカルキーは、主にドアの物理的な施錠解錠というアナログな役割を担いますが、このようにスマートキーシステムが電子的に機能しなくなった際に、車内へのアクセスを確保し、最終的にRFID認証プロセスを実行するための重要なインターフェースとして機能するのです。
スマートキーはなぜ動く?電池切れでもエンジン始動可能な理由